芽吹きの月一日。

ブラウンダスト2

私はロエン・アイルノート。

ノルヘイヤ様のカンピオーネであり、レクシートの次席召喚術師・・・。そして、この世界に生きる人類最後の生き残り。

終末の求道者 アトラクサスを葬るために、日々戦い続けている。

ユースティアさん一行の協力もあって、召喚魔法を完成させる事ができた。その結果、別世界の英雄を多く呼び出せるようになり、アトラクサスと善戦できるようになった。

最近の奴は安易に私を襲ってこない。こちらの様子を伺っているのだろう。呼び出した英雄達の力は絶大であり、奴に浅くない傷を着実に与えている。

召喚魔法を完成させた時、未来の私が助けにきてくれたけど。戦況をみると、私が生きている未来に近づいてきている実感はある。

しかし油断してはならない。英雄達の力は絶大なはずなのに、中々奴は倒れない。奴の本当の恐ろしさは、無尽蔵と思える生命力の高さにあるかも知れない。

そこで私は、奴が襲ってくる頻度が少なくなっている隙に物資や文献が残っていないか散策をするようになった。少しでも奴の攻略に繋がる手がかりを見つけたい。

奴の襲撃の影響は凄まじく、見つかる物資のほとんどは使い物にならない。それでも探し続ければ見つかるもので、幾日前には鍋を見つけた。

ユースティアさんに見せたら、その鍋を使ってシチューを振舞ってくれた。彼女の料理は舌鼓をうつほど美味しく、沢山おかわりしてしまった。また呼び出しに応じてくれたら作って欲しい。

先の日には書物を見つけた。悪魔に憧れる少女の物語だ。創作物だと思われるが楽しく読ませて貰った。

使い魔のアイザックと対話する程度の娯楽しか残ってない中で、書物の存在は私にとってこの上なく救いとなっていたのである。

この日も使える物資を探して、散策をしていた。
足場は瓦礫や建物の残骸が敷き詰められており、平和とは呼べない状況だが私の足取りは軽かった。この日も胸を踊らせるものが見つかれば良いのだけど。

足元に気を払いながら歩いていると、一つの書物を見つけた。

「これは・・・変ね」

この日まで見つけた物資の中で、最も原型をとどめている書物だった。肌に馴染みのない材質を感じ、明らかに異物であると悟るまで時間はかからなかった。もしかしたら、英雄達の落とし物かも知れない。

「ホリーホッターと冒険の書・・・?」

幸い、言語は私が住む世界と同じようで書物の表題を解読することができた。英雄達の書物だと想像されるものに手をかける事は少々気が引ける部分はあるが、私の手元は書物の端を捲っていた。

どのような事が書いてあるんだろう。英雄達の世界を覗いてみたい。私は好奇心を抑えられなかった。

・・・

・・・一瞬の沈黙が流れる。見間違いだろうか。私の目の前には、肌を大きく露わにする女性が目に映る。乳房は瓜のように大きく、大きく実った果実と評するのが最も良い例えだろう。

乳房の大部分は露わになっており、先端が黒い突起で隠されている程度である。頭部には耳を意識したと思われる細長い二つの楕円を合わせた被り物と。腰の下には白色の玉を身につけており、独特な文化を感じられる珍妙な衣装だ。少なくとも、私の世界では見たことがない。

直視することを阻みたくなるくらい、あまりにも刺激的すぎて体温が湧き上がっていくことを肌で感じる。英雄達は、皆こんな刺激的な書物を持ち歩いているのだろうか。

目を凝らして女性を見つめていると、どこか見覚えのある人物に見えてくる。

「・・・へ?」

束ねられた二つの髪。
大きく実った胸。
油断を感じるお腹。

格好に違いはあれど、それは紛れもなく自分に瓜二つの存在だった。

「え、えええええええ!?これ・・・私!?」

思わず声を張り上げてしまう。いや抑えずにはいられない。頭が膨らんできたのではないかと思うくらい、熱を感じていた。続けざまに書物を捲ってみる。

「きゃ、きゃああああああああああ!!!」

無意識に声を張りあげていた。書物を捲る度に私だと思われる人物の挿絵が記録されている。衣装は全て同じようで、私だと思われる人物の挿絵が多く見つかった。

別世界の私は、随分大胆な格好で活動しているようである。

「こ、こんな破廉恥な書物・・・英雄達のものであろうと滅却です!!!」

感情的になり、右手を掲げて巨大な火の玉を生成する。

しかし生成したつかの間、我に帰る。幾日は大人しくなってきたとはいえ、アトラクサスは生きているのだ。落ち着かなければ。

下手に魔法で刺激を与えると、再び暴れ出すかも知れない。平静を取り戻した私は魔法を解除し、再び書物に目を配る。

アトラクサスの討伐に役立つものは書いてなさそうだが、それでも別世界の文化を知れる貴重な書物。滅却は最悪の選択肢だ。まずはしっかり目を通さなければ。

・・・・・

・・・書物を捲ると私の挿絵が多い。破廉恥な衣装ばかりな事は気になるけど・・・少なくとも、私への悪意は見られない。なんなら好意を感じる。

私の挿絵が入った布切れを求めて散策したり、透明な板のようなものに私の挿絵を入れて飾ったりしているみたい。

この筆者の趣向に不気味さを感じるものの、筆者本人が胸を踊らせていることは確かみたい。・・・別世界の私は人気者だったりするのだろうか。

「・・・私のどこが良いんだろう」

緩んだ腹部。細くはない足に、締まりがない胸。乱れた髪で、古びた装束をきている格好の自分に魅力があるとは到底思えなかった。

ユースティアさんの凛とした気高さや、シェラザードさんの鍛え抜かれた体格を見ていると、私よりずっと魅力的に感じるけど。

そう思っていただけにどんな形であれ、私に魅力を感じる存在がいることに心が踊らないといえば嘘になる。

読み進めると次々と胸が実った女性の挿絵が記録されている。

これは私が好きなんじゃなくて、実った胸が好きなだけじゃないだろうか。別世界ではどうやら、胸の事をおっぱい、という言葉で呼ぶらしい。

わざわざ宣言しなくていいですから!この書物読んだ方皆そう思いますから!あなたの書物の挿絵、おっぱいが実った女性の挿絵しか見当たりませんからね?

筆者はこの珍妙な衣装も好きみたい。
気持ち悪く感じた一方でこれを読む限り、他の世界でも似た特徴を持った衣装が実在することは確かだ。

つまり、この衣装が文化として定着していると言う事だろう。破廉恥な格好だと思ったけど、外の世界の私は文化に合わせた格好をしてるだけなのかも。

いやでも・・・別世界の私、それでも攻めすぎてるとは思う。思うけど。

破廉恥な衣装を見られていると想像すると頭が暴発しそうになる感覚が湧き上がる一方、この格好で過ごせる世界である事を羨ましくも感じる。

自信があるのか、矜恃があるのか、この格好自体を楽しんでいるのか分からないけど。少なくとも別世界の私は、今を楽しんでいる気がする。あとは・・・好意を抱く人がいるとか。

挿絵の私には負の感情が見られない。
私も生まれてくる世界が違ったら、こんな格好して楽しく暮らせていたのかな。きっと皆も生きてて・・・。

更に読み進めると、ユースティアさんと思われる挿絵を見つけた。少なくとも私が知ってるユースティアさんと顔が瓜二つだ。

別世界の私に負けないくらい、素肌をさらけ出した格好をしている。
あれ・・・?

胸・・・おっぱい?が大きすぎませんか?ユースティアさんってこんなにおっぱい大きいんですか!?いやだって、私の知ってるユースティアさんって・・・ここまで大きく見えなかったから。

あの鎧の下に、こんなに大きなものが隠されているとは。この書物で最も重大な情報であるとさえ感じる。あの気高いユースティアさんも、こんな格好で浮かれたりするんだ・・・。

今までは悪を捌く使命に一直線な方だと思ってたけど。浮かれたユースティアさんを見たら、なんだか救われた気がした。

最後の生き残りとして、私はアトラクサスを倒す使命を全うしなければならない。ずっとそう考えて生きていた。だけど過ぎ行く時間に比例し、心身ともに疲弊を感じている自分がいることも自覚してた。

自覚してはいたけど、気を緩めてはいけない。緩めちゃ駄目なんだと気を保ち続けていた。そう続けていたけど・・・。

浮かれているユースティアさんを見ていたら、少しは抜いても良いんですよと諭された気がした。今の自分も・・・少しは。少しは今を楽しんでも良いのかな・・・。


「ロエン、お久しぶりですね。・・・!?」
「ロエン、来たわよ!今日もあのデカブツをギャフンと言わせちゃうんだから!・・・あら」
「レディ。今回も俺を呼んでくれたのか。力になるぜ・・・うお!?」

ー 皆さん、こんにちは・・・。えへへ。どうでしょうか?普段の装いから変えてみたんですけど・・・。

「どうってロエン、破廉恥ですよ!」
「あなた、中々グラマラスなスタイルしてたのね。いいじゃない、似合ってるわ!ユーティも負けてられないわね!」
「魅力的なのは間違いないが、どうしてそんな恰好を・・・?」

ー ふぇぇ!?実はこの「ホリーホッターと冒険の書」という書物を読んでいたら、こんな格好のユースティアさんを見かけたので。別世界では露出度の高い服が主流なのかと・・・。

「そんな訳ないじゃないですか!・・・いえ。シェラを見てるとそうなのかも知れないですね。私は着たことがありませんが」
「あららユーティ、こんなに大きなものを隠していたのね」
「ユースティア、お前の鎧、どうなってるんだよ・・・」

ー あの。良かったらなんですけど・・・別世界の衣装について、少しお話を聞いてみたいのですが、駄目でしょうか?

「勿論いいわよ!私にまかせて!もちろんユーティも付き合うのよ」
「なんでですか!やっぱりシェラはシェラですね・・・」
「俺にもまかせてくれ!」
「あんたはダメ。乙女の話に入ってこないで」
「ぐ、ぐう・・・どうしてだよおおお!」

ー すみません、そんな状況ではないのに。

「・・・いいですよ。付き合います。私も話したい気分でしたから」
「言ったわね。ユーティ。覚悟しなさいね?まずはその鎧を剥がすところから」
「待って、シェラ。ロエンは話がしたいんですよね?」
「ロエン、素直になって良いのよ。あなたは別世界の衣装を楽しみたいのよね?私、少しは持ち合わせがあるから合わせてみない?」

ー ・・・はい。してみたいです。

「ロエン!?」
「話は決まりね。覚悟してユーティ?」
「シェラ、ま、待って。ロエン・・・!」

ー すみません、ユースティアさん!

「グレイ助けて・・・って、不貞腐れてる!だ、誰か助けてくださいー!」

ー ・・・。

「・・・」
「ユーティ、凄い大きいわね」
「好きで大きくなった訳じゃないです。不便という訳でもないですが
「私の世界のユーティも大きかったけど、どの世界のユーティも大きいのね」
「褒め言葉として受け取っておきます。ロエン、何か言ってください」

ー 皆さんやこの書物を見てたら・・・私も楽しみを見つけてみたくなったんです。だから・・・その。ユースティアさん、シェラさんありがとうございます。

「・・・ますよ」

ー はい?

「あなたに付き合いますよ、ロエン。私も仲間たちに助けて貰って今がありますから」

ー ユースティアさん・・・!

「でも覚悟してくださいね?」

ー ・・・はい?

「さーて、こんな際どい格好も良いんじゃないかしら?」
「スイッチが入ったシェラは止められませんから。別世界でもほとんどシェラは変わりませんね」

ー もしかして私、押してはいけないスイッチを入れてしまったんでしょうか?

「今更気づきましたか?」
「さーて。準備できたわよ、ロエン、ユーティ!」

ー これは・・・貝殻?衣装なんでしょうか?一部分しか隠せなさそうですが。

「別世界では普通よ?」
「シェラ、ロエンに誤った認識を植え付けようとしないで?」

ー 確かに、別世界の私も大胆でしたし・・・これが普通なのかも。

「ロエン!?」
「あら、2対1になったわねユーティ。じゃあ、ロエン。別世界の過激で、刺激的で、魅力的な衣装をたっぷり堪能させてあげるわね!」

ー よ、よろしくお願いします!

「ロエン!?ここに私の味方は・・・」
「ロエンやユーティのグラマラスなボディ、ずっと色々な衣装着せてみたかったのよね。ユーティ、いくわよー!」
「だ、だれか助けてください!ラテルー!」


・・・皆、私は必ずアトラクサスを倒します。英雄達・・・いえ、仲間たちと。
ですが、仲間と過ごすつかの間だけ・・・思い出を残すことをお許しください。

私も自分だけの書物を遺してみたくなったんです。
この書物の筆者のように、自分だけの記録を。

私の記録が誰に読まれるかは分からない。全く目に止まらないかも知れない。

それでも、誰かの救いになる可能性があるなら。それはアトラクサスを倒すこととは別の希望になると思うから。

仲間達と過ごして生まれたこの暖かい感情を、遺してみたい。誰かに届いたら嬉しいな。

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